「静かなパン」
岬の突端に
ばあさんと
啼かない鈍色の犬がいて
そいつらは 実は 毎日毎日そこにいて
鳶がぐるんと飛んでいて
そこは寒い地方ですから、
なんとなくカレー海岸みたいなんです
ばあさんは、ばあさんはね
花の名前を知らない男に
花の名前を教えているのでした
美空ひばりみたいでしょ
ひとつ教えては 訊いてもいないのに
こっちはきんぽうげだとか
あれはホウセンカだとか
あれはしゃくなげだとか、
言うのでした
ばあさんは、ひとしきり説明すると、小さな白いぺらぺらの紙袋を差し出すんですよ。ボクは、その袋の中にカラスの頭骨とか、溶けた双子のビーズの人形が入っていたらどうしようかと、こっそり身構えるのですが、それはもちろん頭骨じゃなくて、人形じゃなくて、それはボルケーノ火山が噴火したことより明確に、そういったものではなくて、パンなのです。
見たこともないような パンなのです
檻の中に閉じ込められていた
パンなのです
パンを齧ると、
貧乏だったクラスメイトを思い出しました
その貧乏なクラスメイトは、
朝のホームルームで 吐いたのです
ボクは席が隣だったので
なんとなく彼を介抱しなきゃいけなくて、
その時に彼の紺色のペラペラのウインドウブレイカーから、貧乏な匂いがしたのです
その時と同じ匂いがパンからしたもんだから
ボクはてっきりなにかの呪いかと思った
固くて貧乏な匂いのパンをね
食べたときにね
雀にちっと話しかけたら、ちっと返事をしてくれた
時みたいな ゆたかな顔で食べる
ソ ウ イ ウ ヒ ト ニ ボ ク ハ ナ リ タ イ
岬の突端に
ばあさんと
啼かない鈍色の犬がいて
そいつらは 実は 毎日毎日そこにいて
鳶がぐるんと飛んでいて
そこは寒い地方ですから、
なんとなくカレー海岸みたいなんです
ばあさんは、ばあさんはね
花の名前を知らない男に
花の名前を教えているのでした
美空ひばりみたいでしょ
ひとつ教えては 訊いてもいないのに
こっちはきんぽうげだとか
あれはホウセンカだとか
あれはしゃくなげだとか、
言うのでした
ばあさんは、ひとしきり説明すると、小さな白いぺらぺらの紙袋を差し出すんですよ。ボクは、その袋の中にカラスの頭骨とか、溶けた双子のビーズの人形が入っていたらどうしようかと、こっそり身構えるのですが、それはもちろん頭骨じゃなくて、人形じゃなくて、それはボルケーノ火山が噴火したことより明確に、そういったものではなくて、パンなのです。
見たこともないような パンなのです
檻の中に閉じ込められていた
パンなのです
パンを齧ると、
貧乏だったクラスメイトを思い出しました
その貧乏なクラスメイトは、
朝のホームルームで 吐いたのです
ボクは席が隣だったので
なんとなく彼を介抱しなきゃいけなくて、
その時に彼の紺色のペラペラのウインドウブレイカーから、貧乏な匂いがしたのです
その時と同じ匂いがパンからしたもんだから
ボクはてっきりなにかの呪いかと思った
固くて貧乏な匂いのパンをね
食べたときにね
雀にちっと話しかけたら、ちっと返事をしてくれた
時みたいな ゆたかな顔で食べる
ソ ウ イ ウ ヒ ト ニ ボ ク ハ ナ リ タ イ